そこに愛がなくても

2/28
前へ
/28ページ
次へ
東条主任とはそれからもう少しだけ飲んで、一緒に帰りの電車に乗った。 皆川さんの駅をやり過ごし、先に降りる主任を見送ると、私は次の駅で降りて逆方向の電車に乗った。 皆川さんの部屋に行くためだ。 今のこの衝動に従わなければ、もう二度と勇気が出ない気がした。 でも、駅を出て勢い任せにしばらく歩いたところで、やっぱり急に押し掛けるのはまずいんじゃないかと、小心者の私は常識から逸脱していることが急に気になってきた。 美人ならば突飛な行動も様になるのかもしれないけれど、私は同じようにはならない。 傍目から卑屈だと正論をぶたれようが、過去の経験から現実は本人の骨身に染みている。 私には彼の部屋に行く目的があった。 それが正しいと言えるのか分からない。 でも、それが自分に致命傷を与えることだけは分かっていた。 それでも、行きたい。 後で後悔しないように慎重に行こうと、私は気持ちを落ち着けて携帯を取り出した。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1595人が本棚に入れています
本棚に追加