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心を蝕み始めるコンプレックスを振りきり、私は彼に食い下がった。
「なぜ皆川さんが後悔するんですか?」
無言のまま、彼はもう出口の際まで歩を進めている。
彼を引き留めたいあまり、私は絶対に言いたくなかったあの名前を口にしてしまった。
「香子さんがいるからですか?」
彼の足が止まった。
「……なぜ彼女のことを?」
「最初の夜、夜中に皆川さんの携帯が鳴ったのを切ってしまいました。皆川さんが起きてしまうと思って……ごめんなさい。その時の発信者が香子さんで、お名前を見てしまいました」
彼が何も言わないのでそのまま説明を続けた。
自分から彼女の名前を出して関係を尋ねたのに、何か喋っていないと怖くて仕方がなかった。
「あと今日、懇親会でお話しました。私が一人の時に声をかけてこられて、皆川さんとのことをお話されました」
彼がため息をついたのが聞こえた。
立ち入り過ぎだと知りつつも、私は止まれなかった。
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