そこに愛がなくても

22/28
前へ
/28ページ
次へ
心を蝕み始めるコンプレックスを振りきり、私は彼に食い下がった。 「なぜ皆川さんが後悔するんですか?」 無言のまま、彼はもう出口の際まで歩を進めている。 彼を引き留めたいあまり、私は絶対に言いたくなかったあの名前を口にしてしまった。 「香子さんがいるからですか?」 彼の足が止まった。 「……なぜ彼女のことを?」 「最初の夜、夜中に皆川さんの携帯が鳴ったのを切ってしまいました。皆川さんが起きてしまうと思って……ごめんなさい。その時の発信者が香子さんで、お名前を見てしまいました」 彼が何も言わないのでそのまま説明を続けた。 自分から彼女の名前を出して関係を尋ねたのに、何か喋っていないと怖くて仕方がなかった。 「あと今日、懇親会でお話しました。私が一人の時に声をかけてこられて、皆川さんとのことをお話されました」 彼がため息をついたのが聞こえた。 立ち入り過ぎだと知りつつも、私は止まれなかった。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1595人が本棚に入れています
本棚に追加