そこに愛がなくても

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インターホンを鳴らし、静かに深呼吸をしながら応答を待つ。 “もうすぐバトンタッチですね” 彼の任務が終わるのは今月中で、残すところあと十日ほどだ。 だから、ここに立つのは今晩が最後になるのだろう。 彼からの連絡を待てば、あと一週間ぐらいは“延命”できたのかもしれない。 でも、私が決めた今日になるか、それとも彼に提示した日になるか、それだけの違いだ。 うつむいているとドアが開く音がして、灰色の廊下に黄色い光の帯が伸びた。 「どうぞ」 顔を上げると、彼はほんの少し私の顔に視線を止めたあと、中へと促した。 「メールから早かったですね」 「もう駅に着いていたので。急にすみません」 「いいえ」 家の中は暖まっているけれど、先に立って歩く彼の背中はまるで誰かの来訪を待っていたようにまだ上着を脱いだだけのシャツ姿だ。
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