彼の“例外”

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脱け殻のような心で日々を過ごすうち、いつのまにか世間は二月に入っていた。 新年にぶら下げた自宅のカレンダーは一度もめくられないまま無気力に一月で止まっていたけれど、会社の机の上に積み上げられた仕事は凄いスピードで片付けられていた。 これまでは会社に出勤しても、皆川さんに出くわすことはほとんどなかった。 彼との“レッスン”で会う頻度も、週一回より少なかった。 なのに、もう彼と会えないと思うだけで、世界はすっかり変わってしまったようだった。 東条主任に失恋した時は日々顔を合わせることが辛かったのに、今は逆だ。 会いたい。会いたい。 一目でいいから会いたい──。 絶え間なく叫び続ける心の持って行き場は、日々の仕事しかなかった。 東条主任が時おり心配そうにしていることはわかっていたけれど、その度に私は「平気です」と笑っていた。
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