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人事本部は同じフロアなので、数分もかからない距離だ。
今は駄目。今は駄目。
女だからこそ、会社では絶対に泣いちゃいけない。
でも、怒りやら自責の念やら色々な感情がごっちゃになって、涙腺はもはや時限爆弾のようだった。
人事本部に飛び込み、周囲も見ずまっしぐらに本部長室を目指す。
秘書の女性は理由を説明して何度も頭を下げる私に、とても優しく応対してくれた。
「受け取っておくように言われていますので、お預かりしますね。ちゃんと説明しておきますから大丈夫ですよ。本部長はさほどお急ぎではなかったので気になさらないで下さい」
重ねて頭を下げ、出口に向かう。
彼女の優しさで気が緩んでしまったのか、あともう少しの辛抱だというのに、こぼれる寸前の涙の粒が大きく膨らんで前がよく見えない。
あと少し、あと少し。
わななく唇を噛み、小走りに進んで出口にたどり着いたところで、私はそこに立っていた誰かにぶつかってしまった。
「すみません……!」
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