アメとムチ

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廊下を近づいてくる誰かの話し声で我に返り、作業服の袖で頬の涙をぬぐう。 外出するにはこの先にあるエレベーターを利用するはずなので、いつ彼が来るか分からない。 副本部長もすぐに報告しなければ再び雷だろう。 もたもたしていられなかった。 情けない顔のまま、地獄に戻る気分で企画本部のドアを開けた。 副本部長は席に座り、出張前の最後のメールチェックをしているようだった。 書類を届けた旨を報告して改めて謝ると、顔も上げないままのぞんざいな返事が返ってきただけだった。 でも、私にはその方がありがたかった。 自席に戻り、黙々と机の上の崩れた山を片付ける。 逃げ出していた同僚たちも席に戻り始めていたけれど、みんな同情の視線をちらちらと寄越すだけで、誰も私に近づこうとしない。 東条主任は部長と終日出張で、彼に見られなかったことだけが救いだ。
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