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「江藤さん、ごめん」
パソコンのキーを打つ手を止めて顔を上げると、隣のチームの主任さんが済まなさそうな笑顔を浮かべて立っていた。
「引き出しからごっそり出てきちゃってさ」
彼はそう言いながら、私の机の上にくしゃくしゃになったタクシー領収書や出張先のメモ書きの山を乗せた。
メモ山は彼の手が離れると崩れ、私のパソコンのキーボードにもわらわらと落ちてきた。
「三重のやつは先月なんだよね。あ、あと大阪も二件、先月かな」
ため息をついてメモを取り上げる。
「月をまたぐと経理から怒られるって、この間も言ったじゃないですか」
「ごめんって!来月から気をつけるよ」
両手を合わせながら、常習犯の主任さんはさっさと逃げていく。
「あの!電車賃の細目が書かれてないんですけど」
「ああ、それ忘れちゃってさ。路線検索で調べたら出てくるよ」
大声で呼び止めると、そんな他人任せな返事が返ってきた。
“ごめん”なんて口先ばかりで、絶対に思ってない。
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