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「お疲れ様です」
爽やかな彼につられ、私も苛々を忘れて笑顔になる。
夕方になっても東条主任は朝と変わらずとても涼やかで、見た目がくたびれているのを見たことがない。
女の私の方がよほど汚ならしいんじゃないかと、お化粧を直す暇もなくテカった顔が恥ずかしくなる。
「何か新しい話ありましたか?」
「パネルの新工場の建設地が千葉に決まったらしいよ。まだ極秘だから資料が配られなかったんだけどね」
メモをめくる細く長い指に見とれていると、いつかその薬指に指輪がはめられる日が来るのかなと少し切なくなった。
皆川さんは堀内嬢の話を眉唾ものだと言うけれど、それをそのまま鵜呑みにする気にもなれない。
「合弁ですか?」
「今のところ単独みたいだけど模索中だろうね」
「千葉だったら見学行かされるかな」
「僕と行こうよ」
少し下降気味にショボついた気分を押上げるように会話をつないでいると、主任がメモを閉じニヤリと笑い、声をひそめた。
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