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「こちらです」
彼が支える寝室のドアから、腰と首だけ伸ばして中を覗く。
姿勢がおかしいけれど、こうでもしなければ傍らに立つ彼に触れてしまう。
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。お仕置き部屋ではないので」
中腰の姿勢のまま、私の呼吸が止まった。
「冗談です」
彼は真顔でそう言うと、銀色のフレームを光らせて中に入っていった。
皆川氏が言うとまったく冗談に聞こえない。
冷や汗をぬぐいながら私も寝室に足を踏み入れた。
ここもやはり余計な物がない。
見るからに居心地が良さそうな大きなベッドにサイドテーブル、書棚、クローゼット。
ベッドには大きな枕が一つだけ。
それを見てほっとしたのは何故だろう?
何となくホテルで見た彼の寝顔を思い出してしまい、頭から離れなくなった。
普段と違って棘のないあの寝顔で、彼は毎晩ここで眠っているのだろうか。
でも、女性の痕跡を見つけてしまいそうで、それ以上は視線を動かせなかった。
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