図書館の王子様

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「……来ない」  待ち人が来ない。  いつも日曜日の午後にはこの図書館に現れるのに、見つめる自動ドアの向こうには車の影だけが流れていく。 「まだかなぁ」  待ちかねてる人は、たったひとり。サラサラの茶髪に、スクエアの黒縁眼鏡。百八十センチ以上はある長身を備え付けの椅子に窮屈そうに押し込めて、夕方まで黙々と勉強してる真面目な人。  私が、去年の春からずっと片想いしてる相手だ。  偶然、模試で会って同じ学年ってことと学校名はわかったけど、名前がまだわからない。  だから、今日このチョコを渡して仲良くなりたい。話しかけるきっかけが欲しくて、バレンタインデーが来るのをずっと待ってた。 「黒縁眼鏡くん、まーだかなぁ……あっ、痛っ」 「おい、お前、もしかして告白の男待ち? 今時ロングのツインテールしてる女なんて、それだけで引かれるぞ」 「ちょっ、林! 髪、引っ張らないでください」 「ふふん。まぁ、せいぜい頑張れや。俺、帰るー」  早よ帰れ、ばか。いつもからかってくる林のせいで自慢のツインテの形が崩れた。泣きそう。せっかく綺麗に整えてきたのに、ムカつく!
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