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彼らは大変だ。好きで家を失ったわけではない。
廃れた格好をして歩けば、人は皆冷たい視線を向ける。
そうやって、心が荒んでいく。
そんな彼らも、必要なものがあれば買い物に来る。
ちゃんとお金を払ってるからお客様なのに、売場はいい顔しない。
だから僕は、ホームレスのおっちゃん3人の溜まり場に足を踏み入れた。
『こんばんわー』
「やんのか、このやろう!」
「ふざけんな!ばかにしに来たのか!」
「何しに来た、帰れ!」
僕の顔を見るなり、声を荒げるおっちゃんたち。
それもそのはず。いつも僕は、この人たちを店内から追い出す身なのだ。
他のお客様の迷惑だからと。
それが僕の仕事なのだ。
契約しているお店が排除しろと言っているので、逆らうことができない。委託先の需要のために仕事をするのが警備業界なのだ。
だから個人で動くことにした。
僕はビニールに入ったワンカップ焼酎の瓶を見せびらかした。
『いらないのか……』
ホームレスたちは一瞬驚いた顔になり、次に笑顔になった。
「酒だ!!!」
「くれるのかい?!」
「ありがたやーーー」
喜ぶ彼らに、僕は協定を持ちかけた。
『ごめんね、いつもちゃんとお金払って来てくれてるのに、お店が嫌がってるから追い出さないといけなくて。でも僕個人としてはおっちゃんたちはお客様だと思ってるから。それだけ言いたくて。だから、今度から、欲しいものがあったら僕に言って。買ってくるから、ここで会計しよう。ただ、僕は夜遅いから、届けに来れるのは今くらいの時間なんだ』
おっちゃんたちは目を真ん丸にして僕を見た。
「俺らを差別しないのか」
『しないよ。おっちゃんたちは絶対盗みやらないじゃん。細かいお金だけど、ちゃんと払ってるの見てるから。盗んだら許さないけど、買ってるんだから。何も悪いことしてないじゃん』
「臭いだろ?嫌じゃないのか?」
『お店のゴミ捨て場に比べたら全然臭くない』
「なんてやつだ!」
『だから、僕がパシリになるよ。もし必要なものがあれば今言って。明日また来るよ』
そうして、協定を結んでから、僕はおっちゃんたちの足になっている。
今では、同じ場所でカップ麺をすする仲になった。
お店では結構話題になっている。
【最近ホームレス来なくなったよね】
【めっきりね】
【他の店の友達も同じ事言ってた】
ええ、そうでしょうよ。
だって僕が買い物してるんだから。
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