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「アクア、行こう。お隣さんがね、マホにお別れの挨拶しに来てもいいって」
ゆいちゃんはそう言いながら、アクアを上着のポッケに入れ、机の引き出しから上手に作れた折り紙をいくつかとりだします。
「……キナコったら、どこに行ったのかしら……」
キナコを呼びながら外に出て、お隣に向かいます。夜中に歩いたより短く感じました。
大きく開け放たれた鉄門から挨拶をしながら入ると、お隣さんが大きなダンボールに横たわるマホに会わせてくれました。
「……マホ、ありがとね」
ゆいちゃんは、アクアが横たわるマホが見えるように抱き上げ、持ってきた折り紙をマホのそばに置きます。
「あら、あの子は確かお宅の猫ちゃんだったわね。あなたもこっちにいらっしゃい」
お隣さんの声に答えてキナコが走ってきました。と、後ろから次々と猫やら犬やら、その飼主が追いかけてきます。
「ぼくが知る限りのマホままの子ども達に声をかけたんだ。そしたらね、みんな、ちゃんとお別れがしたいって……」
ゆいちゃんにしか聞こえないよう、キナコがささやきました。そんなキナコがいとおしくて思わず抱きしめました。
たくさんの犬やら猫やら、その飼主と、噂を聞き付けた子ども達が次々やってきて、お隣はいっぱいになりました。
哀しいけれど、なんだか心温まる光景で、マホのいろんなエピソードを知ることができました。
その語られるエピソードがひと息ついたころ、ゆいちゃん達はそっとその場を後にしました。
部屋に入るなり、アクアが小さな声でお礼を言いました。
その夜、ゆいちゃんは夢を見ました。広い原っぱをマホと一緒に遊ぶ夢です。キナコもアクアも一緒にです。
いっぱい遊んだ後、マホが輝く地平線に向かって走り出しました。お別れの時です。
「マホ、ありがとう。またね!」
夢の中なら何度でも会える。だからさよならじゃなくて、またね。
さようならは哀しいからまたね。
また会いたいからまたね。もう会えないとわかっていても……
またね、またね、またね……
小さくなっていくマホの姿に、ゆいちゃんの声がこだまになって、原っぱに響き渡っていくのでした。
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