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ゆいちゃんは、小さな話し声で目を覚ましてしまいました。布団にくるまったまま、枕元に置いてある目覚まし時計に手を伸ばし、針の位置を見ます。針はまだ深夜を指しています。
(こんな夜中に、誰なんだろう)
一度気になったら、もう寝るに寝れなくなってしまい、ついつい話し声に聞き耳をたててしまいます。
「だからさぁ、ぼくは行きたくないんだってば。ゆいちゃんのそばで寝たいんだってば」
「もう、キナコったら! あなたを助けてくれた方でしょ?」
「う……、朝になってからじゃダメかな?」
「キナコは大丈夫だけど、わたしはヒトが寝静まる時じゃないと動けないのよ」
キナコ? キナコって、猫のキナコ?
もうひとりしゃべっているのは誰? 声からすると女の子みたいだけど……
ゆいちゃんは、そっと声がするほうに身体の向きを変え、声がするほうに目を向けます。はじめは真っ暗で何も見えませんでしたが、次第に輪郭が見えてきます。
ぶちぶちと文句を言いながら伸びをするのは、間違いなく猫のキナコです。そのキナコの側にゆいちゃんのお気に入りの人形のアクアがうろうろと歩き回っています。
と、その時です。ゆいちゃんの視線とアクアの視線が交わったのです。
「「あっ」」
アクアはその場にぱたりと倒れて動かなくなりましたが、ゆいちゃんは起き上がり、アクアを拾い上げ話しかけます。
「キナコと話していたのは、あなたなの?」
キナコがばつが悪そうに、しきりに顔を洗っています。
「キナコもお話できるなら、わたしにも話してよ」
キナコの動きが止り、ゆっくりゆいちゃんの方に向き直ります。
「……いつ、気づいたの?」
「キナコがどこかに行きたくない。と、答えたあたりから」
ゆいちゃんはキナコの問いに、素直に答えました。
「……だって、アクア。ゆいちゃんにバレバレ」
キナコの言葉で、アクアはゆいちゃんの両手に支えられたまま、ガクッと肩を落としました。
「……で、キナコとアクア、二人でどこへ行こうとしていたの?」
ゆいちゃんは、アクアを床に座らせ、手を離しました。
「お隣のマホままのところ。
マホまま、最近見かけないって、ゆいちゃん言ってたでしょ? だからぼく、マホままをたずねに行ったんだ。そしたらね……」
キナコがそこまで言って、言葉をつまらせます。
「……もう、いつお別れの時がきててもおかしくないんだって……」
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