またね

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 マホはお隣さんが飼っている犬の名前で、とてもやさしい性格で、ゆいちゃんをはじめ子ども達に人気です。 「マホままは、ぼくがまだ目が開かない頃見つけてもらって、マホままにお乳をもらっていたことがあるだって。ぼくはあまり覚えてないけれどね」 「あたしは排水路に落っこちたときに、助けてもらったことがあるわ。まだ、ゆいちゃんが保育園に入る前のことよ」 「……そんなことあったんだ。アクアをうっかり排水路に落として、わんわん泣いていたことは、覚えているのだけど」 「だからね、マホのところに行きたくて、キナコに外に出るのを手伝ってもらおうとしていたの」  ――もう、会えなくなるかもしれない。だからこそ、今、会いたい。という気持ちが、ゆいちゃんにもわかりました。 「わたしもアクアのお手伝いするね」  ゆいちゃんは立ちあがり、タンスから靴下と上に羽織るものを取りだし、身に着けます。 「アクア、このポッケに入ってね」  ゆいちゃんはそう声をかけ、大きなポケットにアクアを入れ、部屋を出ます。 「暗いけれど、電気つけないでね。他のヒトにあたしが動いたり話したりしているところを見られたくないから」  だけど、あまりにも暗いので、あちこちにぶつかり音をたててしまいます。  お父さん達に気づかれてしまうのではないかと思いながら、やっと階段のところまできました。  階段を滑り落ちないよう、よつん這いでそろそろと降ります。時々階段がきしみ、ゆいちゃんの額に汗がふきでます。 「ゆいちゃん、ちょっと待ってて。あらかじめかけておくのだった」  キナコがそう言いながら、ゆいちゃんの足に近づきます。 「猫の足 忍び足 忍者の足  足音 足跡 跡形もなくなれ」  キナコの前足が、ゆいちゃんの足に触れてます。すると、ゆいちゃんの足音が消えてしまいました。 「キナコ、すごーい」 「猫の足のように、足音があまりしなくなる術だよ。長い間かからないし、慌てると解けちゃうから、静かに急いでね」  ゆいちゃんはうなずき、階段を降りました。  リビングルームの淡いオレンジの光のおかげで、出入口までスムーズに行けました。  音を立てないように鍵を開け、ゆいちゃんは外に出ました。街灯が行く道を照らしています。 (真っ暗の中、歩かずにすんでよかったわ)  ゆいちゃんはそう思いながら歩きます。      
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