1人が本棚に入れています
本棚に追加
お隣はすぐそこなのですが、なんだかいつもより遠くに感じるのは、やはり夜だからでしょうか。
ようやくお隣さんに着きましたが、大きな鉄門で先に進むことができません。
「ゆいちゃん、こっちこっち」
キナコが呼びます。そこには植木に隙間があり、キナコがゆうゆうと通り抜けられるほどの大きさがありました。
「ゆいちゃんは通り抜けられないけど、アクアなら行けるはずだよ」
「キナコ、ありがとう。ゆいちゃん、ごめん、しばらく一人になっちゃうけど……」
ゆいちゃんは独りぼっちになるのは嫌でしたが、アクアの願いを叶えるために我慢することにしました。
(アクア、ちゃんとマホに会えたのかしら……)
どれだけ待ったのでしょうか。月明かりに照らされた雲を見ていると、時間がどれだけ過ぎたのかよくわからなくなってきました。
後ろからがさがさという音に、ゆいちゃんは思わず身構えます。
「……ただいま」
キナコとアクアです。
「ガラスごしだけど、マホままに会えたよ」
見ると、アクアは今にも泣きそうな顔をしています。
「……とにかく早く帰ろう。ぐずぐずしていたら、新聞配達のバイクが来ちゃうよ」
ゆいちゃんはアクアを抱いて、お家へ走ります。途中から、自分の足音が聞こえていることに気がつきました。
滑り込むように家に入り、鍵をかけなおし、トイレに行ったふりをしてから、ゆいちゃんは自分の部屋に戻りました。
「……ゆいちゃん、ありがとう。マホにまたね。としか声かけられなかったけど、会えてよかったわ」
ゆいちゃんは、ぎゅっとアクアを抱きしめました。
「アクア、一緒に寝よ?
もちろんキナコも一緒にね」
涙を流しながら、アクアはうなずきました。
「人形のお仕事、おろそかにしちゃったわ。ダメね、あたし……」
アクアのひとり言をかみしめながら、上着を脱ぎ、靴下を脱ぎ、アクアと一緒に布団に入りました。キナコも喉をならしながら、布団の中に滑り込みます。
やがて、遠くで走る新聞配達のバイクの音を子守唄がわりに、短い眠りについたのです。
ゆいちゃんが学校から帰るなり、アクアに哀しい知らせを口にしました。
アクアは動きませんでしたが、なんだか哀しい顔つきです。
最初のコメントを投稿しよう!