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B
2017年2月2日
俺は沢尻からスマホを奪われた。
電話帳に登録してある20人が人質に取られている。そんな感覚だ。
『絆は大切だよな?おまえが殺ったんじゃないって信じるよ』
釈放されたのは午前5時だ。
スカイラインってゆースポーツカーを沢尻から与えられた。GPSが仕込まれているらしい。
野火駅西口にあるエイトテンってコンビニで菓子パンとカフェオレっちゅー粗末な朝食を買って、アイドリングしながら食べた。
オッサンが注意しようと近づいてきた。
バスンッ!銃声がして、オッサンの頭がスイカみたく弾けた。
『路駐には気をつけろ?』
沢尻の幻聴が聞こえた。
スカイラインを駆って工場街に向かった。
フェニックスからボールペン工場に派遣されていた。8時からの勤務なのでまだ時間があるが、自宅に戻る気にならなかった。
工場の近くにあるバイソンってコンビニの駐車場に逃げ込んだ。ラジオを子守唄に仮眠を取ろう。
チャンネルは79,5だ。
《おっしゃるとおりです》
DJの声がスピーカーから聞こえてくる。
アライグマに似たデカイ猫が店先にいる。
メインクーンって種族だったな?
奴は利口な猫でさ?物を持ったり、棚の戸を開けたり、トイレを流したり出来る。彼岸花にいる障害者たちより知能は高いはずだ。
奴の手に何かが握られていた。
それは紛れもなく人間の指だった。
そんな状況でも眠気には勝てず、シマウマにまたがり草原を駆ける夢を見た。
目を覚ますとメインクーンは消えていた。
時刻を見てビックリした。4:32…………時間が巻き戻っている。薄闇のなかにカラスの不気味な声が響いている。
フリオーソ的な風が吹いている。
音楽用語で荒れ狂うって意味だ。
美女が窓の外に立っていた。
茶色がかった大きな瞳、ユルフワな髪、ベージュのスーツ。
大学時代につきあっていた涼子にどことなく似ていた。23の誕生日の夜に別れた。
9月12日、あの夜もヒドイ嵐だった。
パワーウィンドゥを下ろした。
「やぁ?涼子、久しぶり」
声を掛けたが彼女には表情がなかった。
左手の中指が欠損していた。
「涼子!まさか、おまえ…………?」
「君のせいよ?ワタシの命を返して」
そこで夢から覚めた。
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