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しかも男だらけの男子校である。教員たちはよく、ここが男子校でなく女子校だったら大変なことになっていた、と桂の外見の良さを揶揄する。
他の教師に羨ましがられる点は暇なことだけ、という佐和にとって、見た目も教師としても完璧な桂は、学内で最も苦手な相手だった。
「……生徒たちに名前で呼ばれるのも不本意なんだよ。朝から絡むなって」
「そう言われても、廊下の真ん中で突っ立って、俺のクラスの生徒を睨んでるの見たら、何事かと思わざるをえないんですけど」
「やっぱりあいつら、特進か……」
桂のクラスの生徒、と聞いて納得する。
「はい? なにがやっぱりなんです?」
「……なんでもねえよ」
「佐和先生?」
まだなにか言いたそうな桂を置き去りにして、さっさと歩き出す。
佐和はどうしても、桂が気に入らないのだ。
桂のクラスの生徒だという二人の横を通る際、もう一度二人に目をやった。色白、というより生っ白い肌は特別進学科クラス、通称特進の生徒たちの特徴だ。
柊成高校は戦後間もなく創立された古い男子校で、半世紀以上に渡って、スポーツの名門校として全国に名を馳せてきた。
野球部は甲子園の常連校、サッカー部は冬の選手権で優勝経験あり、ラグビー部も何度も花園に出場し、他の運動部も軒並み全国大会出場や県大会の上位に入る名門だ。
といえば聞こえはよいが、要はスポーツだけで戦後五十年もってきた高校、ともいえる。しかし昨今では少子化の影響で、他の私立高校でも生徒数を増やすために全国からスポーツ特待生を受け入れるなど運動部に力を入れていて、柊成高校のライバルは増えるばかりだ。
そんな中、数年前に柊成高校の理事長が代わり、経営方針が大きく変わった。これからはスポーツのみならず、勉学にも大いに力を入れ、進学校としても全国に名を馳せようという、大胆な方針転換があったのだ。
そして三年前、進学に特化した、特別進学科クラスが新たに創設された。
その結果、特進クラスの生徒たちの多くが国立大学、有名私立大学に合格し、進学率で生徒数を増やすという政策は成功した。最初は一クラスで始まった特進クラスも、今では文系理系の各一クラスずつに増えている。
そしてその特進クラスの生徒たちが、佐和の悩みを深くしているのだった。
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