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十月一日。衣替え初日の、爽やかな秋の朝。
本田佐和(ほんださわ)は昨日までと変わらない、ドッシリと構えた古めかしい門扉の前で、昨日までとは一変した暗い景色にクラリと眩暈を起こした。
眼前に広がるのは、真っ黒な学生服の群れ。
黒い詰襟に金のボタンのオーソドックスな制服――学ラン。
学ラン、それは『萌』という名のふしだらな妄想を掻き立てる、危険な装束(コス)。
「はぁ、はぁあ……」
息が上がった佐和の目の前を、学ラン姿の生徒たちが通り過ぎていく。
彼らは元気に顔を見合わせて笑い、時折体を寄せては戯れている。
昨晩、深夜まで読み耽った小説の、一場面を再現したかのような光景に――。
「ふぅうううう……」
佐和の鼻息が荒くなる。
それともこの光景は、一昨日の晩、涙を流した漫画の中のものだったろうか。
佐和を夢中にさせる漫画や小説に出てくる学ランの少年たちは、甘酸っぱい恋に落ち、悩み、時には傷つき、そして大人への階段を――。
めくるめく官能体験を――。
「うわぁああああ!」
佐和はその場にへたり込んだ。近くを通った生徒たちがギョッとして振り返ったが、とても立ち上がれなかった。
目の前の光景が眩しすぎて。
(なんで、なんだ……?)
佐和は叫びたかった。
目の前にそびえ立つ見慣れた校舎に向かって、思い切り――。
(なんで俺の職場は……男子校なんだーーー?!)
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