煩悩の腐男子先生

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 しかし佐和は、男子校の教師である。 (生徒たちをBL妄想に使うなんて、サイテーのダメ教師じゃんか……)  佐和は小説を机の端によけ、頭を抱えた。 (俺に……ここで教師を続ける資格はあるのか……?)  こんな最低な自分が。  佐和はズルズルと崩れ、ヤニ臭い机に伏せた。  そのタイミングに合わせたように、ドアがノックされる。  伏せた顔を上げると、扉が開いた。 「……深山、先生……」  開いた扉から現れたのは、桂だ。  目が合うと、シルバーフレームの奥の目がわずかに眇められた。 「佐和先生の様子が、おかしかったので……」  心配した、とでも言うかと思ったが――。 「見にきたんですけど、またサボりですか?」  いつもの憎まれ口だった。  佐和の顔がムッと歪む。 「……そうだよ。で、深山先生はなんの用だ? また誰かのお土産でも届てくれたって?」 (お前こそサボりにきたんじゃないのか?)  そう言ってやりたいのを堪える。 「お菓子が欲しいなんて、エロサイト見てる生徒たちより、お子ちゃまですね」  ニヤリと笑って、なぜか桂は化学科準備室に入ってきた。  本当にサボりか? と疑っているとそれが顔に出たのか、桂は「失礼ですね」と言って眼鏡のブリッジに右手の中指をあてた。 (……男のくせにきれいな指しやがって)  佐和は、桂の全てに文句をつけたい気分だった。 「俺は三年生の英語も見てますから、本当に忙しいんですよ」 「だったら、なんでここにいるんだよ?」 「……さぁ、なんででしょう?」 「は? ……てゆうか、近いよ!」  桂の長くてきれいな指を眺めていたら、いつの間にかその指が顔のすぐ前にあった。  嫌味か? と言いたいぐらい腰を折り、桂が佐和の顔を覗き込んできた。 (どんだけ足長いんだよ!) 「佐和先生、最近ずっと……元気ないですよね?」 「え?」  長い足に向けられていた佐和の視線が、整った顔に戻される。 (ち、近い……)  細くて長い指と、シルバーフレームの奥の冷たい切れ長の目が――ものすごく近い。 (な、なんか……)  佐和の心臓が、ドキドキと鳴り出す。 (マジでBLに出てきそうだよな……)  きれいな顔に、少し長めの柔らかそうなくせ毛。そして、モデルのように長い手足。  冷たそうな、切れ長の目。  至近距離で改めて眺めた桂は、佐和の理想の――攻、そのものだった。
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