煩悩の腐男子先生

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「やっぱり佐和先生……」  昨日も読んだBL漫画に出てきそうなきれいな顔が、さらに近づく。 「大野先生と、なにかありましたね?」 「よ、寄るな! このドS鬼畜変態眼鏡!」  思わず口をついて出たのは、昨日読んだ漫画の影響で――。 「あっ!」  慌てて口を押さえてももう遅く、桂の切れ長の目が、満月のように丸くなった。 「……なに、言ってるんです?」 「あ、えっと……あの……」  趣味がモロバレの言葉を口走ってしまった。  動揺した佐和は、意味もなく立ち上がった。  その拍子に肘が当たり、散らかった机の上の物がいくつか落ちる。 (ゲェッ!)  床に散らばったのは、ファイルやプリントと――読みかけのBL小説だった。 「なにを慌てて……?!」 「ああ! 拾わなくていいからっ!」  リーチの差で、先に桂に文庫本を拾われてしまった。  桂は文庫本を表にして――固まった。 「それは、その……」  佐和の額から、尋常でない汗が噴き出す。  桂は文庫本をひっくり返し、裏表紙を読み出した。声に出して。 「イケない生徒と……アブない放課後?」 「み、深山先生!」  手を伸ばして文庫本を取り返そうとするも、背の高い桂相手では簡単にはいかない。 「先生が解くのは数式じゃなくて……恋?」 「深山先生! 返してくれ!」 「どうやらこの攻は、鬼畜でも変態でもないようですが……?」 「……え?」 (今……深山先生は、攻、と言った?) 「この本は多分、大野先生の趣味ですよね? 鬼畜と変態は……佐和先生のご趣味ですか?」  桂が妖しく笑み、シルバーフレームの奥の切れ長の目が、キラリと光った――ように見えた。 (やっぱりイケメン……じゃなくて!)  妖しい笑みに一瞬目を奪われた後、佐和は大きく頭を振った。 「あゆみが……大野先生が腐女子だって、なんで知ってるんだ?!」 (俺だって、一ヶ月前に知ったばかりなのに!) 「大野先生は、図書室でよくこういう……ボーイズラブっていうんでしたっけ? の本を読んでましたよ」 「あゆみが?!」 「ええ。まさか、カップルで揃って好きだとは、思いもしませんでしたけど」  そう言うと桂は、あっさり佐和に文庫本を返した。  それを受け取った佐和は――呆然とした。 (深山先生でも知ってたことを、俺は……) 「佐和先生?」 「俺は……あゆみの、なにを知ってたんだ……」
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