254人が本棚に入れています
本棚に追加
/116ページ
「あいつらが……生徒たちが勝手に頭の中で攻と受に分別されてくんだよ。普通科の奴らはまだいいよ、あいつらの中にBLらしい奴らなんてほとんどいない。問題は……深山先生! あんたんとこの、特進の奴らだ!」
佐和は文庫本を放り出し、桂の胸倉を掴んだ。
「生っ白くて華奢で……あんな奴ら絶対、受決定だろうが! 海枝なんか、もう何回押し倒されてるか!」
(お前に!)
それだけはさすがに呑み込んだ。
佐和のBL妄想が悪化したのは、海枝が桂を好きだと打ち明けてきたせいだ。――海枝は桂が相手だとは言っていないが、桂より海枝にふさわしい男は、この学校にはいない。
桂×海枝は、佐和の萌えポイントにずっぽりとハマったのだ。
(まただ! また俺は!)
こうして桂に打ち明けている最中にも、妖しい妄想をおっぱじめている。
「俺に……教師を続ける資格なんかないんだ……」
(教え子を、妄想のネタに使って喜んでる俺なんて……)
「佐和先生……」
「俺はあゆみに振られて当然だ。……恋人のこともろくに知らなくて、生徒たちを邪な目で見ている変質者だ……」
そう口にしてしまうと、プライベートでも仕事でも、自分のダメッぷりが改めて思い知らされ、打ちひしがれる。
そして教師を続ける自信が、なくなっていく。
明るい笑顔で、自分を信頼していると言ってくれた生徒たちを裏切り続けるのは、苦しすぎる。
「なにバカなことを言ってるんですか、あなたは……」
しかし桂は、深刻な佐和の告白を軽く笑い飛ばした。
「なんで、佐和先生が教師をやめなきゃいけないんです?」
あんまり桂が軽く言うので、佐和は少しいら立って桂を睨み――目を瞬かせた。
軽口を叩く桂は、いつものように皮肉に笑っているのだろうと思った。
だが見上げた桂の目は、見たことのない――優しいものだった。
(なんだよ……)
優しい切れ長の瞳はなぜか見ていられず、佐和は桂から目を逸らした。
桂の胸倉を掴んでいた手が力を無くし、スルリと離れていこうとして――やんわりと掴まれた。
桂が、いつもの呆れ気味のため息を吐く。
「あのねぇ、佐和先生。世の中には、残念ながら生徒によからぬことをしでかす、本当に腐った教師がごまんといます。けどあなたは、自分が生徒になにかしようと思ったりはしないでしょ?」
最初のコメントを投稿しよう!