煩悩の腐男子先生

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「あいつらが……生徒たちが勝手に頭の中で攻と受に分別されてくんだよ。普通科の奴らはまだいいよ、あいつらの中にBLらしい奴らなんてほとんどいない。問題は……深山先生! あんたんとこの、特進の奴らだ!」  佐和は文庫本を放り出し、桂の胸倉を掴んだ。 「生っ白くて華奢で……あんな奴ら絶対、受決定だろうが! 海枝なんか、もう何回押し倒されてるか!」 (お前に!)  それだけはさすがに呑み込んだ。  佐和のBL妄想が悪化したのは、海枝が桂を好きだと打ち明けてきたせいだ。――海枝は桂が相手だとは言っていないが、桂より海枝にふさわしい男は、この学校にはいない。  桂×海枝は、佐和の萌えポイントにずっぽりとハマったのだ。 (まただ! また俺は!)  こうして桂に打ち明けている最中にも、妖しい妄想をおっぱじめている。 「俺に……教師を続ける資格なんかないんだ……」 (教え子を、妄想のネタに使って喜んでる俺なんて……) 「佐和先生……」 「俺はあゆみに振られて当然だ。……恋人のこともろくに知らなくて、生徒たちを邪な目で見ている変質者だ……」  そう口にしてしまうと、プライベートでも仕事でも、自分のダメッぷりが改めて思い知らされ、打ちひしがれる。  そして教師を続ける自信が、なくなっていく。  明るい笑顔で、自分を信頼していると言ってくれた生徒たちを裏切り続けるのは、苦しすぎる。 「なにバカなことを言ってるんですか、あなたは……」  しかし桂は、深刻な佐和の告白を軽く笑い飛ばした。 「なんで、佐和先生が教師をやめなきゃいけないんです?」  あんまり桂が軽く言うので、佐和は少しいら立って桂を睨み――目を瞬かせた。  軽口を叩く桂は、いつものように皮肉に笑っているのだろうと思った。  だが見上げた桂の目は、見たことのない――優しいものだった。 (なんだよ……)  優しい切れ長の瞳はなぜか見ていられず、佐和は桂から目を逸らした。  桂の胸倉を掴んでいた手が力を無くし、スルリと離れていこうとして――やんわりと掴まれた。  桂が、いつもの呆れ気味のため息を吐く。 「あのねぇ、佐和先生。世の中には、残念ながら生徒によからぬことをしでかす、本当に腐った教師がごまんといます。けどあなたは、自分が生徒になにかしようと思ったりはしないでしょ?」
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