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桂は文庫本を机に戻すと、シルバーフレームの眼鏡のブリッジを押さえ、今日一番の危険な笑みを見せた。
「眼鏡はかろうじてかけていますが……ドSでも鬼畜でもなくて、申し訳ないです。ま、変態のご希望には添えるかと」
佐和の背中に悪寒と――ナニかしらの衝撃が走る。
「深山、先生? ……っ!」
佐和は、自分が逃げ遅れたことに気づいた。
桂が佐和の両脇に手をつき、逃げられなくされた。
ナニかの危険を感じているのに、体が動かない。机と桂に挟まれてしまったのだ。
しかも桂が体を密着させてきて、顔も今にもくっつきそうなほど近づけてきて――本当にくっついた。
「っ!」
桂にキスされた。
あっという間の出来事で、佐和は拒むことも、振り払うこともできなかった。
そしてキスされたまま、硬直した。
触れた唇は少し冷たく――柔らかかった。
チュッと下唇を吸われた後、少しの間唇が離れる。
「佐和先生、ボーっとしないで下さい。ほら、口開けて」
「へ? ……んっ!」
へ――の口を開いたところで、舌をねじ込まれた。
ヌルリと舌を舐められ――。
「……な、なにしてんだよ?!」
やっと桂の胸を叩いた。
しかし、机と桂の体に挟まれた佐和はほとんど動けず、桂の胸を叩く力も強くはなかった。
「なにって……キスですよ? 佐和先生、子供じゃないんだから面倒なこと聞かないで下さい」
桂は何食わぬ顔でそう言いのけた。
「はぁあ?! そういう意味のなにしてんだ、じゃないっつうの! なんでお前が……俺にキスしてんだよ!」
佐和は混乱した。なぜ自分が、同僚で同性の教師にキスされているのか、さっぱりわからない。
(この状況は……なんなんだ?)
「佐和先生……BLを読んでて、気になりません?」
「な、なにが!」
「男同士の、セックス」
言葉と一緒に耳元に吹きかけられた息に、ゾクリと震えた。
「佐和先生は、男としたことなんかないでしょう? だったら本の中のこと、本当かどうかわからないですよね?」
「な、な、なに言ってんだ? そんなの気にもしたことねぇよ!」
嘘である。常々思っていた。
(男同士って……気持ちイイのか?)
それを見透かしたのか、桂が笑う。
「参考までに、俺が教えてあげますよ」
「ええっ?! んん!」
再びキスされた。
いきなり舌を入れられ、口内を舐め回される。
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