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「訴えてやる……」
自分の椅子に身を沈めたまま、佐和はボソリと呟いた。
スーツのズボンと白衣は元通り身に着けているが、中の下着は汚れてしまったので脱いで――ノーパンだ。
(く、屈辱だ……28にもなって、学校でノーパンなんて……)
クッと喉を鳴らし、膝の上に置いた両手を強く握る。情けなくて、体が震える。
少し離れたところで、ジャブジャブと水音がする。桂が化学室と化学科準備室を繋ぐ扉の横の小さな洗面台で、佐和のパンツを洗っていた。
(しかも、同僚の男にパンツを洗われてるなんて……死にたい)
「絶対に……訴えてやるからな!」
「いいですけど、理事長や校長に、なんて言うんです?」
キュッと蛇口が閉まる音がして、パンとパンツを叩く音がした。
「パンツ、きれいになったと思いますよ」
鬼畜変態ドS眼鏡が、悪魔のように微笑んで、濡れたパンツを翳した。
たまらず佐和は立ち上がり、桂の前に立つと己のパンツをひったくった。
「俺は、お前を許さないぞ! 絶対お前を訴えて、クビにしてやる!」
「だからそれはいいですけど……理事長に、なんて言うんですかって聞いてるんですよ」
「そ、それは……ありのままを」
「お尻に試験管を突っ込まれて、グリグリされるセクハラを受けました、て理事会で訴えるんですか?」
「うっ……」
そんなこと言えるわけがなかった。
それを見越しているから、桂は余裕の態度を崩さないのだ。
それでも佐和は、食い下がった。
「ああ、そう訴えてやるよ! そうしたら深山先生、あんたが最悪のセクハラ野郎だってこともバレるんだ……?」
言いながら、佐和は頭を捻った。
「深山先生……なんであんた、俺相手にセクハラなんかしたんだ?」
いくら桂が性悪でも、男相手にする嫌がらせにしては、やり過ぎだろう。佐和が女性教諭なら、まだあり得るだろうが。
佐和が不思議そうに見つめると、桂はニッコリと笑った。
「ああ俺、女性に興味がないんですよ」
「……へ?」
「ゲイなんです、俺」
佐和の目が――点になる。
「でなけりゃ、年上の男性教諭にセクハラなんかしないでしょう? あ、でも俺は、セクハラだとは思ってませんよ? 佐和先生がボーイズラブに目覚めたって言うから、後ろの良さを……」
「ワーッ! わかったから! もう言うな!」
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