腐男子先生のアブない青春

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 化学科準備室で強烈なセクハラを受けてからというもの、佐和は校内で気の休まる時がなくなった。  あんなに激しいものではないが、桂が佐和を見つけると、ちょいちょいセクハラをしてくるようになったからだ。    化学科準備室で、ひどいセクハラを受けた翌日だった。朝の職員会議で、いつの間にか隣に桂が立っていた。   「ぎゃっ!」  佐和の変な声が職員室に響き、教師たちに怪訝な目で見られた。佐和は慌てて同僚たちに弁明し、涙目で隣の桂を睨んだ。  桂がこっそり佐和の尻を撫でたのだ。  その日のうちだったか、また別の日だったか忘れたが、昼休みにもセクハラの被害に遭った。  職員室の自席で出前のラーメンを啜っていると、またいつの間にか桂が隣の席に座っていた。 「佐和先生……」  桂はニヤけた顔で佐和を呼ぶと、アーン、と口を開けた。  佐和は呆気にとられた後、腹が立って、まだ熱々の餃子を桂の口に放り込んでやった。  してやったり、とほくそ笑んだ佐和だが、桂は熱いものに強く、放り込まれた餃子を美味いと喜び――佐和の仕返しは叶わなかった。  大好きな餃子を一つ奪われ、腸が煮えくり返った佐和は、その怒りを放課後まで引きずり、注意を怠ってしまった。  一人で放課後の校内を見回りしていた時、桂が隠れてついてきていることに気づかなかった。  危うく人気のない教室に引っ張りこまれそうになったが、偶然にも他の教師が通りかかり、事なきを得た。  そんな風に、佐和は連日のように、桂からセクハラを受けていた。  恐ろしくて、化学科準備室でおちおちタバコも吸えない事態だ。 「最近、本田先生はよく職員室にいますね」  前田にそう言われたのは、つい昨日のことだ。   (また化学準備室で襲われたら、敵わないからな……)  タバコの禁断症状に耐えながら、佐和は笑って誤魔化した。  そんな風に桂から逃げ回ることで忙しく、一時期悩まされたBL妄想から開放されたことは、皮肉だ。  ある日、放課後の職員室に戻った佐和は、桂の姿がないのを確認すると、荷物をまとめてさっさと帰宅しようとした。  使い古したキャメル色のポストマンバッグを斜め掛けにし、まさに職員室を出ようとした、その時。    ――本田先生、いらっしゃったら至急体育科準備室にお越し下さい。    校内アナウンスが、佐和の足を止めた。
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