腐男子先生のアブない青春

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 すぐにその声は、ラグビー部顧問で体育教師の広瀬だとわかった。 (なんだ……?)  佐和はラグビー部の副顧問をしているが、教えているのは広瀬なので、毎日の練習に参加することは少ない。試合前の忙しい時期ならともかく、今日呼び出される理由は思い当たらなかった。  不思議に思いながら、職員室から遠く離れた体育科準備室に向かう。  職員室のある特別棟から、一度外に出る。柊成高校では普通科の生徒はほとんど運動部に所属しているので、放課後の校内は部活に向かう生徒たちで慌ただしい。  その中には二人連れで歩く野球部連中もいるし、すでにユニフォーム姿で駆けるバスケ部の連中などがいるが、そのどれを見ても佐和の頭の中は、一時のようには色めかない。  ムフ、とニヤつくぐらいで、激しく危険なアブない妄想はほとんど湧いてこなかった。    なぜなら、どこかに桂がいないか警戒する方が忙しいからだ。  桂の姿に怯えながら、戯れる柔道着姿の一年生二人にニヤつきながら、佐和は一階が柔道場、二階が剣道場になっている小体育館に入った。  体育教師たちが使う体育科準備室は、剣道場の隣だ。    柔道場脇の階段を上り、二階の体育科準備室に着くと軽くノックし、引き戸をガラガラと開けた。 「広瀬先生、本田で……!」  ドアに近い簡単な応接セットに座る人物に、佐和が凍りつく。 「本田先生、お帰りのところすいません」  恰幅のよい、ジャージ姿の広瀬が、二つ並んだ一人掛けソファの手前側に座っている。  その隣の一人掛けソファには、ラグビー部員の川上が下を向いて座り、二人が対面する二人掛けソファの奥に――。    愛想よく笑う、桂がいた。  不敵にも見える笑みが――不気味だ。 「な、んで深山先生が……」  ラグビー部員の川上と、ラグビー部顧問の広瀬が体育科準備室で一緒にいるのは、普通の光景だ。  しかし、特進の英語教師がここにいるのは、明らかに不自然である。    広瀬が佐和に桂の横に座るよう手振りで促すが、体が強張って中々動かない。   「ちょっと相談があってね……あ、本田先生どうぞ座って下さい」  言葉に出して促されてしまったので、仕方なく桂の隣に座る。 「ひぃっ!」  体育科準備室ではまさか、と油断していた。  桂が、佐和が座るソファにスッと手を差し入れ、座った瞬に尻を触られてしまった。広瀬と川上からは見えない位置で。
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