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座った途端おかしな声を出した佐和に、二人が怪訝そうな顔をする。
「あ、す、すいません……。それで広瀬先生、相談というのは?」
隣でクスリと笑った桂は無視し、広瀬に向き直る。
「ああ、そうです。それがですね……大変困ったことになったんですよ」
「困ったこと?」
「はい。先週、三学年で実力テストがあったでしょう?」
「ええ……」
定期テストとは別の全国共通模試が、先週行われた。
受験必須科目の英数国だけのテストで、定期テストのように直接成績には関係ないが、特進クラスと三年生では、進路決定に関わる重要なテストでもあった。
しかし――と、広瀬の隣で小さくなっている川上を見る。二年生で普通科の川上には、実力テストはさほど重要ではなかったはずだ。
広瀬がその川上を見下ろし、フーッと重い息を吐いた。
「その実力テストで、なんとも不名誉なことですが……うちのラグビー部員が三学年で最下位を取ったんですよ……」
「え? 一年から三年まで全部……ですか?」
思わず佐和が身を乗り出すと、広瀬は渋い顔で大きく頷いた。
「もしかして、二年の最下位は……」
ソロソロと川上を見ると、大きな川上が普段の半分ぐらいに小さくなっていた。
そこでなぜか、桂が続きを語り出した。
「それで、我が校を全国屈指の進学校に変えようと標榜する、望月理事一派から文句をつけられてしまったんですよ。ね、広瀬先生?」
(望月理事って、深山の……)
佐和は思い出していた。望月理事は、特進科を作る際に中心となった人物で、桂はその望月理事のお気に入りなのだ。桂を特進科の英語教師に推したのも、望月理事だと聞いたことがある。
つまり桂は、柊成高校をスポーツ名門校から進学校へ転換させたい一派の教師で、普通科や運動部連中とは相対する教師、ともいえる。
しかし桂は、飄々と続けた。
「川上は、二年でたった一人のレギュラーです。いわばラグビー部期待のエースだ。……ですが、我が校を進学校にしたいと思う望月理事や、望月理事に近い先生たちからは、逆にラグビーばかりしていて勉強をおろそかにする生徒、という風にも見えるわけです」
「そんな! うちのラグビー部でレギュラー取るのが、どんだけ大変かわかってないのか?! しかも二年でだぞ! 勉強が疎かになったって無理ないだろ!」
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