腐男子先生のアブない青春

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 佐和は決して、熱心なラグビー部顧問ではない。だが自分も高校時代ラグビー部だったから、柊成高校の強さはよく知っている。  その中で、一年からレギュラーでい続ける川上の努力もまた、佐和には十分すぎるほどわかるのだ。    ムキになって反論すると、桂が困ったように眉根を寄せた。 「そこにつけ込まれてしまったんですよ。高校生は、勉学が第一のはずだ、と言い出したんです」 「なんだよそれ……。うちの高校の知名度上げたのは、元々は運動部だぞ」 「それはそうですけど、高校生の本分が勉学であるということに、教育者として反論の余地はないでしょう?」  皮肉でなく論理的に返されてしまうと、なにも言い返せなくなる。  根っから理系の佐和は、討論は苦手なのだ。 「それでイチャモンをつけられて、困ってるんですよ」  そうボヤいたのは広瀬だ。腕を組み、こちらも難しい顔をしている。 「最下位を取った一年の部員と、三年の部員は違ったが、川上はレギュラーメンバーだ。怪我でもなければ俺は、こいつをもうじき始まる、花園予選に出すつもりでいました」 「ええ、そうでしょう」 「しかし文句を言ってきた連中は、川上はまだ二年なんだから、試合に出るより勉強の方が大事だって言うんです」 「それは、花園の予選に、川上を出すなってことですか?!」  広瀬が重く頷いた。 「そんな……」  ひどすぎる。と低く呟き、佐和は安物のソファに沈んだ。  川上を見ると、深くうなだれて、膝の上に置いた両手をきつく握っていた。  よほど悔しいのだろう。佐和の胸も痛い。 「そこで……深山先生が、助け舟を出してくれたんですよ」 「え?」  広瀬の言葉に、桂を振り返る。  桂は嘘臭いほど、深刻な顔をしていた。 「ちょうどその話をしている時、俺もその場にいたんです」  望月理事のお気に入りである桂が居合わせたことは、さもありなん、だ。大方、ゴマでも擦っていたのだろう。 「俺もラグビー部の成績の悪さは問題だと思いますが、せっかく頑張ってきたのに、試合に出させないのはあまりにも冷酷な仕打ちじゃないかと思いまして……」  芝居がかった仕草で頷く桂を、胡散臭そうに見ているのは佐和だけだ。 「だから望月理事たちに、提案したんです。次の中間テストで川上の成績が上がれば、試合に出させてあげてもいいんじゃないかって」 「上がるって……どれぐらいですか?」
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