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その佐和の問いには広瀬が答えた。
「実力テストと同じ英数国で、平均点を取るってところで勘弁してもらったよ」
「平均点……ですか」
それでも微妙だ。なにせ川上は、実力テストで最下位の成績だったのだから。
「それで本田先生に相談なんです。というか、お願いなんですが……」
「俺、ですか?」
佐和が不思議そうにすると、ずっと黙っていた川上が口を開いた。
「俺に……個別指導して下さい! 佐和ちゃ……本田先生!」
そしてガバッと頭を下げた。
「お、俺? 俺は……化学の教師だぞ? 数学は教えられても、英語と国語はちょっと……」
ちょっと、どころか絶対に無理だ。佐和は英語が不得意で、受ける大学のランクを一つ下げることになったし、国語が嫌いだから理系を選んだぐらいなのだ。
「英語と国語は、俺に任せて下さい」
その一言で隣を振り向くと、桂が詐欺師のように怪しい笑顔を作っていた。
「な、なんで深山先生が……」
「俺が提案したことですし、川上の熱意に打たれたんですよ」
桂はいかにも良い教師面して、同情的な視線を川上に向けた。
(ゼッテー裏がある……)
そう思ったが、川上の必死の訴えに、嫌とは言えなくなる。
「佐和ちゃん……俺、試合出てぇよ! 今出れたって、来年どうなるかわかんないじゃん? 俺より上手い奴が出てくるかもしんないし、怪我するかもしんない。だから出れる時に出たいんだ。勉強しなかったのは俺が悪かったけど……佐和ちゃん助けてくれよ!」
川上は勢いよく、応接テーブルに額をつけた。
「おい川上、顔上げろって」
親しい生徒のそんな姿は見たくない。そっと肩に触れ、顔を上げさせる。
「わかったよ、俺ができる範囲で勉強見てやるから……」
「佐和ちゃ~ん……」
顔を上げた川上はうっすらと涙目で、佐和はもう断れなかった。
「じゃあ佐和先生、一緒に頑張りましょう」
「……はい?」
なぜ、桂と一緒に頑張るのかわからない。
桂がまたあの悪魔の笑みを見せる。
「二人で協力して、川上を無事花園予選に出場させてやりましょう!」
佐和はやっと気づいた。
(……ハメられた!)
ホッとする川上と広瀬を横目に、佐和は一人顔を青くした。
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