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部活に向かう広瀬と川上と、小体育館を出たところで別れた佐和は、桂を振り切るようにいきなり早足になった。
「佐和先生、早速打ち合わせしましょうよ」
桂が後ろから声をかけてくるが、無視する。
(なにが打ち合わせだ! またセクハラされてたまるかってんだ!)
歩く速度はぐんぐん上がる。
「……へ~、随分な態度ですね。俺、特進で英語を教えてて、かなり忙しいって知ってますよね?」
桂の口調が変わった。嫌な予感がして、足を止めて振り返る。
桂はシルバーフレームの眼鏡を押し上げ、意地悪く微笑んだ。
「しかも、望月理事一派とは懇意にしてる。……理事たちから圧力があったから、とでも言って、川上の補習を断ることもできるんですよ?」
「……お前、なにが目的だ?」
「目的? 佐和先生と仲良くしたいだけですよ?」
(白々しい!)
そんなわけはない、と桂を睨む。
「どうせ……川上の勉強を見る代わりに、とか言って、セクハラするつもりなんだろう?!」
「え? いいんですか?!」
「あっ!」
と余計なことを言った口を押さえるが、もう遅い。
桂が嬉しそうに笑う。
「じゃあ、そうしましょう。川上が中間テストで平均点を取れたら、その代償に……佐和先生を貰います」
「はぁあああ?!」
(も、貰うってなに?!)
絶対無理、と首をブンブンと横に振るが、桂はニーっと笑った。
「いいんですか? 可愛い川上が、試合に出られなくなっても」
ぐうう、と唸って佐和は押し黙った。
悪魔は嬉しそうに笑って「じゃあ早速、仲良く二人きりで打ち合わせましょう」と言った。
(俺……呪われてんのか?)
佐和は、悪魔に魅入られた我が身の不幸を、嘆くことしかできなかった。
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