腐男子先生のアブない青春

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 貴重な勉強時間だ。教える立場の佐和がボーっとする暇はないのだが、佐和はあれ以来、化学科準備室にいるとすぐにおかしくなってしまう。 「大丈夫? 佐和ちゃん。なんか気分悪そうだけど、俺がバカだから……引いてる?」 「は? 違うよ。そんなことで引いたりしないって」 「それって……俺がバカなのは認めるってことだよね?」  川上がむくれたので、佐和は噴き出した。 「あったり前だろ! でなきゃ、なんで昼休みにお前と勉強してんだよ」 「あ、そっか」  そう言うと、川上は悪びれずに笑った。  あっけらかんとした川上に、苦笑するしかない。軽く頭を小突き、問題の続きをするよう促した。  素直に再び問題と対峙する川上を眺めながら、佐和はふと、思った。  引きはしないが、川上の出来なさは佐和の想像以上だった。川上と親しい佐和でも驚くほどだから、元々接点のない桂はどう感じて、どんな風に川上に教えているのだろうか、と。 「なぁ、川上」 「……はい?」 「深山先生はどうだ? ちゃんと教えてくれてるか?」  ん~、と言いながら、川上はプリントから顔を上げた。シャープペンシルを顎の下に当てる。 「そうっすね。なんか意外でしたけど」 「意外?」 「深山先生って特進の先生だし、一回も教わったことなかったから、勝手におっかなそうな先生だと思ってたんですよ」  桂は、生徒たちの前では常に、生真面目な表情を崩さない。それは切れ長の目とあいまって、冷たい印象を与えることもあった。  佐和は自分勝手な僻みもあって、冷たいというより嫌味ったらしい、という印象を持ったが。   「でも、勉強教えてくれる深山先生は、すっごく親切ですよ。雑談とかは一切ないけど、教え方は丁寧だし、わかんないところも根気よく教えてくれるし……」 「そうか……」  納得する振りをしながら、佐和は内心で驚いていた。桂は佐和にセクハラをするために、面白がって川上の個別指導を受けたとばかり思っていたのだ。 (あいつ、真面目にやってんのか……) 「やっぱ特進の先生って頭いいんすかね? 教え方めっちゃわかりやすいっすよ」  川上が、佐和をからかうように笑った。 「……悪かったな。どうせ普通科の教師は、お前らに毛が生えた程度だよ」  皮肉を返してやったのに、川上はさらにおかしそうに笑った。
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