腐男子先生のアブない青春

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 まだ全部終わってないぞ、と佐和がプリントを叩くと、へ~い、とふざけた調子で川上は続きを始めた。憎たらしい態度だが、問題を解き始めると、すぐに集中して真剣な顔つきになった。 (さすがに花園クラスのラグビー部員ともなると、集中力が違うもんだ)  それからしばらく、川上は問題に打ち込んだ。それに付き合い、佐和も隣で大人しく数学の教科書を読んでいた。  コンコン。    ふいにドアがノックされ、ほぼ同時にドアが開く。 「失礼します。授業の準備にきました」  丁寧に入ってきたのは、化学係の海枝だ。 「あれ? ああ……五時間目は実験だったか」  もうそんな時間か、と壁の時計を見ると、昼休みは残り十分を切っていた。  次の時間が海枝のクラスの化学だとは覚えていたが、実験の授業だということは失念して、なんの準備もしていなかった。   (暇なくせに……て深山先生に嫌味言われそうだな) 「悪い海枝、実験で使う道具のリスト今から出すから、ちょっと待っててくれ」 「……なんで、尚紀がここにいるの?」  不穏な声にギョッとして振り向くと、海枝はドアの前に立ったまま、佐和の隣の川上を睨んでいた。   「おお、忍」  川上は、睨まれても気にならないのか気づいていないのか、気安く声をかけた。  対して海枝は、きれいな顔を憎々しげに歪めた。 (な、なんだ……? 喧嘩か?!)  佐和は慌てて、気まずい空気を打破しようと口を挟んだ。 「川上の数学の個別指導を、俺がしてるんだよ。そ、そうだ海枝、友達なんだろ? だったらお前も、勉強教えてやってくれな……」 「絶対にイヤです!」 「あ、そ……」  すごい剣幕で断られ、教師の佐和の方が怯んでしまう。  海枝はフンッと顔を背け、さっさと化学室に行ってしまった。  バン! という荒っぽい音に顔をしかめ、佐和は川上に顔を向けた。 「……本当にお前ら、友達なのか?」  川上は眉間に皺を寄せ、シャープペンシルでこめかみのあたりをポリポリと掻いている。 「佐和ちゃん……忍と仲いいんすか?」 「……そう聞かれても、答えようがないぞ。あいつとは、化学の授業でしか一緒にならないし」 「ああ……ですよねぇ……」  いつも明るい川上が、やけに歯切れが悪い。
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