腐男子先生のアブない青春

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 放課後の化学科準備室。  佐和は白衣を脱いで、壁際のロッカーにしまいっ放しのラガーシャツに着替えた。    ラガーシャツと同じメーカーのジャージを履いて、ロッカーの一番奥に突っ込まれた、ボロボロのスパイクを引っ張り出す。   「そろそろ買い替えるか……」  使い古されたスパイクを取り出すたびに思うのだが、そう思ってから何年も経っている。たまにしか使わないので、いつも買い替えるタイミングを失うのだ。  ラグビー部の副顧問をしている佐和だが、練習に参加することはほとんどない。  試合ではいろいろと人手がいるので手伝いに行くが、練習では正式な監督の広瀬がいるし、雑用は一年生部員の仕事だから、手伝うこともないのだ。    だから今日、久しぶりにラグビー部の練習に行くことになったのは、連日勉強を教えている川上に誘われたからだ。 「佐和ちゃん、もっと練習くればいいのに」  遊びにくればいいのに、と言うぐらいの軽さで言われたので、佐和も簡単に頷いた。  佐和も高校時代ラグビー部に所属していたので、たまになら練習に参加するのも楽しい。 (毎日、はとても無理だけどな……)  柊成高校のラグビー部は、全国大会常連校である。とてもついていけない。  己の体力の衰えを嘆きながら、化学科準備室を出て施錠した。 「……いいですね、コスプレですか」 「うわっ!」  いきなり背後から声がして、飛び上がる。 「いつもの白衣もいいですけど……ラガーシャツとは、おつですねぇ」  鬼畜変態ドS眼鏡あらため、スケベセクハラ眼鏡悪魔、が笑っている。 「それは……高校時代のユニフォームですか?」  上から下までジロジロ眺められ、ゾワリと悪寒が走る。 「そ、そうだよ! 悪いか?!」  佐和が着ているのは、佐和が高校三年間着用した、思い出のユニフォームだ。  濃紺とサックスブルーのボーダーで、背中には白字で10の背番号と、「HONDA」と入っている。   「悪くないどころか、とってもイイですよ。ただ残念なのは……下が普通のジャージってとこですかね? せっかくだから、短パン履いてくださいよ。あ、色は白で、白のスパッツもあるとなお……」 「絶対にお断りだ!」  キッパリと言って、佐和は桂の横をすり抜けようとした。いつまでも話し込んでいては、またナニされるかわからない。
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