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「今から俺、ラグビー部の練習に行くんだけど、深山先生も一緒に来ないか? うちのラグビー部って強豪のわりにオープンで、部外者が見学に行っても全然大丈夫だからさ。川上がラグビーしてるとこ、見てやってよ」
「いや、俺は……」
言いよどむ桂に、佐和が首を傾げる。すると桂は、顔を横に向けた。
「俺が行くと、ラグビー部の連中が嫌がるんじゃないかと……」
「は?」
「ほら、あいつらみたいないかにもな体育会系連中は、インテリ教師は苦手でしょう? だからどうも、あいつらとは馴染まなくて」
いつもの高慢な桂――だが、なにかが違う。
いや、以前の佐和なら、気づかなかっただけかもしれない。
桂は――拗ねているみたいだった。
思わず佐和は、クスリと笑った。
桂がムッとする。
「なんですか?」
「川上、深山先生のこと褒めてたよ?」
「……え?」
「教え方はわかりやすいし、親切で丁寧だって。『やっぱり特進の先生は頭いいんすかね~』なんて、生意気なことまで言われたよ」
川上の言葉をそのまま伝えると、桂の切れ長の目は大きく丸くなった。
それから――本当に照れたようで、そっぽを向いた。
(……あれ?)
傾き始めた日に照らされた桂の横顔に、佐和の胸がざわつく。
「そりゃあ……佐和先生に比べれば」
「おい!」
桂がいつものように皮肉を言ってくれて、助かった。
「もういいよ! これは俺が預かるから!」
クリアファイルをひったくり、今度こそ桂を置いて歩き出した。
「佐和先生! 今度はユニフォームコスプレでしましょうね!」
後ろからセクハラ発言を受け、「するか!」と言い返すといつもの高笑いが聞こえた。
(なんだ……? これは)
佐和は乙女のように、胸に手を当てた。
明らかに、心臓がさっきより煩い――。
照れたような桂の横顔が目に焼きついて消えず、鼓動が早まるのだった。
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