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佐和の元彼女が置いていった本の中にも、男子校が舞台の漫画や小説が山ほどあった。その影響をもろに受けてしまい、二学期が始まった頃には、いつもの職場が今までとまるで違って見えるようになってしまったのだ。
それでも、二学期が始まったばかりの九月はなんとか持ちこたえた。しかし今日、恐れていた衣替えが行われ、佐和はいよいよ苦しくなった。
(学ランの威力……ヤバいだろ!)
よせばいいのに、昨日の深夜まで夢中になって読んでいたのも学園モノで、美しい主人公の制服は黒の詰襟だった。
その主人公の学ランがみだらに乱れる画を思い出し、一人で取り乱す。
(だ、だから~、あいつらのどこが美貌の男子高校生なんだよ!)
パっと顔を上げ、近くの窓辺でなにやら楽しげに会話する二人の生徒を見やる。
(しまった!)
佐和はすぐに後悔した。
偶然目を向けた二人は色が白く、高校生にもなってまだ背が伸びきらない華奢な部類の生徒だった。
中学生のような細い首で薄い胸の二人が、漫画雑誌を一緒に覗いて仲睦まじげに笑っている。
途端に佐和の脳内がBL脳に切り替わり、一瞬で激しい妄想が駆け巡り――。
「佐和先生どうしたんです? いつもより顔が間抜けですよ」
「っうわあ! 出たっ……!」
鬼畜眼鏡! という趣味がばれそうな単語はなんとか飲み込む。
「み、深山(みやま)先生……名前で呼ぶのやめろって、何度も言ってんだろ!」
イラっとして、佐和より頭二つ分高い位置にある嫌味な顔を睨んだ。
「なんでです? 生徒たちもみんな、佐和先生のことは名前で呼んでるじゃないですか」
朝から口の減らない男、深山桂(けい)は、口の片端を引き上げて笑った。
皮肉な笑みで見下ろされ、佐和が唸る。二つ年下の二十六歳で、年齢も教師としても後輩の桂に見下ろされるのは、毎度のことながら気分が悪い。
桂は、花形の英語教師だ。しかも佐和より後輩の身分ですでにクラス担任を持ち、理事長や校長からの覚えもめでたい、憎たらしい男だ。
それだけでも嫌味な存在なのだが、なおかつ身長は佐和より高く、柔らかそうな少し長めのゆるいくせ毛に、顔立ちは涼やかな切れ長の目が印象的なイケメンである。
妙に洒落たシルバーフレームの眼鏡なんぞを掛け、スーツはどこぞのブランドを着こなしているのも嫌味だ。
(ただの私立高校の教師のくせによ!)
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