256人が本棚に入れています
本棚に追加
その日の放課後、胸の辺りを押さえながら、佐和は職員室から化学科準備室に戻ってきた。
(春の健康診断じゃ、心電図に問題はなかったんだけどな……)
昼休みからずっと、心臓から胃にかけた辺りがモヤモヤしている。
(昼休みの中華丼のせいか……?)
柊成高校職員御用達の中華料理屋の出前が、店主が二代目に代わって味が変わったというのは、職員の間でも有名な話だ。
首を傾げながら中に入る。
(さっさと帰って、今日は早く寝るか……)
自席で荷物を纏めながら、体調が悪いのだと結論づけた。
「あれ……?」
帰り支度の途中、返却期限が過ぎてしまった図書室の本を見つけた。化学系の学術書が二冊と、カラーページが豊富な科学雑誌だ。
もちろん、BL小説ではない。
(面倒だけど、返してから帰るか……)
体調が悪くとも、教師が学校の図書を返し忘れているのは問題だ。鞄と一緒に本も持って席を立つ。
ドアに手をかけると、勝手に開いた。
「……今日も早いお帰りですねぇ。本当にお暇で羨ましい」
「み、深山先生!」
出張でいないはずの桂が突然現れ、心臓が口から飛び出そうになった。
「なんでいるんだ?!」
「出張から戻ってきた報告しにきただけです。それと……」
そう言うと、桂は佐和に紙袋を押しつけた。
「お土産……?」
紙袋の中を覗くと、カスタードクリームが美味い、有名な土産菓子の箱が見えた。
(出張から戻った報告なんて明日でもいいだろうし……土産だって明日でも……)
「ありがとう……。この菓子美味いよな」
(でも、本当は笹かまのほうが好きなんだけどな……)
そう思ったが、そんな意地悪は言えなかった。
「ああ、よかった。笹かまにするか悩んだんですよ。こっちにして正解でした」
最初のコメントを投稿しよう!