腐男子先生のアブない青春

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 その日の放課後、胸の辺りを押さえながら、佐和は職員室から化学科準備室に戻ってきた。   (春の健康診断じゃ、心電図に問題はなかったんだけどな……)  昼休みからずっと、心臓から胃にかけた辺りがモヤモヤしている。 (昼休みの中華丼のせいか……?)  柊成高校職員御用達の中華料理屋の出前が、店主が二代目に代わって味が変わったというのは、職員の間でも有名な話だ。  首を傾げながら中に入る。 (さっさと帰って、今日は早く寝るか……)  自席で荷物を纏めながら、体調が悪いのだと結論づけた。 「あれ……?」  帰り支度の途中、返却期限が過ぎてしまった図書室の本を見つけた。化学系の学術書が二冊と、カラーページが豊富な科学雑誌だ。  もちろん、BL小説ではない。 (面倒だけど、返してから帰るか……)  体調が悪くとも、教師が学校の図書を返し忘れているのは問題だ。鞄と一緒に本も持って席を立つ。  ドアに手をかけると、勝手に開いた。 「……今日も早いお帰りですねぇ。本当にお暇で羨ましい」 「み、深山先生!」  出張でいないはずの桂が突然現れ、心臓が口から飛び出そうになった。 「なんでいるんだ?!」 「出張から戻ってきた報告しにきただけです。それと……」  そう言うと、桂は佐和に紙袋を押しつけた。 「お土産……?」  紙袋の中を覗くと、カスタードクリームが美味い、有名な土産菓子の箱が見えた。 (出張から戻った報告なんて明日でもいいだろうし……土産だって明日でも……) 「ありがとう……。この菓子美味いよな」 (でも、本当は笹かまのほうが好きなんだけどな……)  そう思ったが、そんな意地悪は言えなかった。 「ああ、よかった。笹かまにするか悩んだんですよ。こっちにして正解でした」
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