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何気ない佐和の一言に、桂があんまり嬉しそうに笑ったからだ。
(やべ……なんか胃がまた……)
みぞおち辺りが、キューッと痛む。
いつも皮肉で嫌味な桂。年下のくせに自分よりずっと優秀で、鼻持ちならない男。
そんな桂が、最近違った風に見える。
「お菓子も色々あって悩んだんですよ。美味そうな大福もあったんですけど、生菓子だから日持ちが気になって……悩んで定番にしたんです」
スケベで変態で、とんでもないセクハラ野郎。そのくせ、些細なことでこんなに喜ぶ、子供のような一面も持っている。
生徒が褒めていたと聞いただけで、お土産が嬉しいと社交辞令で答えただけで、照れたように笑う。
そしてそんな桂を見ると佐和は――。
(変だ……)
自分も桂も。
お土産の袋を受け取るため、片手で持った本を落としそうになった。
「おっと……!」
それを桂が受け止める。
「あ! 今月号、佐和先生が借りてたんですか!」
「へっ?」
桂は佐和が借りていた科学雑誌を取り上げ、怒り出した。
「しかもこれ、返却日過ぎてません? 俺、ずっと探してたんですよ」
「え? わ、悪い。てゆうか深山先生……こんなの読むんだ?」
佐和が借りていた科学雑誌は、広く自然科学を記事にする雑誌で、専門家向けのものではないが、英語教師の桂が読むのは意外だった。
「いつも読んでるわけじゃないんですけど、今月号は特集が気になったんで」
「……え? 特集?」
表紙を今一度、確認する。今月号の特集記事は『タイムトラベルは可能か』だった。
(えっと……?)
桂と――タイムトラベルという単語が結びつかず、なんと言ったらよいかわからない。
桂は佐和の当惑に気づかないのか、嬉々として続けた。
「俺、UFOは宇宙人じゃなくて未来人だって説、最近アリだなって思うようになったんですよね。ほら、歴史的な事件、事故の現場では必ずといっていいほどUFOが目撃されたり、写真に写っていたりするっていう」
「ゆ、UFO……?」
タイムトラベル以上にパンチのある単語が飛び出し、佐和は呆気にとられた。
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