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「UFOは未来からきた人間が、過去の大事件、大事故を検証しにきてるんだって説です。その説が本当なら、未来の人間はタイムトラベルが可能になってるってことじゃないですか。ですから、タイムトラベルについて科学的な見解がぜひ知りたいと思って。理論上は、可能なんですよね?」
「え? そ、そうなんだ……?」
「そうなんだって、佐和先生も読んだんですよね? てゆうか佐和先生は、理科の先生なんだから俺よりずっと理解が深いかと……」
「いや俺は、後ろの方の、この前のノーベル賞の記事を読んだだけだから……」
「…………え?」
化学科準備室に、奇妙な沈黙が流れる。
シーン、という音を聞いた後――。
「しまった……」
と呟き、桂が右手で顔を抑えて天を仰いだ。
佐和は思わず――噴いた。
桂の顔は隠されて見えないが、耳は真っ赤で、顔色は容易に想像できる。
あの桂が、真っ赤になって照れている。
なぜか佐和は、とても優しい気持になった。いつもの仕返しと、皮肉を言ってやってもよいのに――そんな気は起きなかった。
意地悪にならないよう、言葉を選んで尋ねる。
「深山先生……SFとか、好きなんだ?」
しばらく待っていると、桂は大きなため息を吐いて振り向いた。
「実は俺……」
赤い顔で下を向いたまま、桂はいつもの革鞄に手を入れ、古い冊子を取り出した。
宇宙が表紙の古い冊子は、佐和も観たことがある、超有名宇宙映画の、英語版のパンフレットのようだった。
桂が無言で差し出してきたので、黙って受け取る。中を捲ると、やはり佐和の知っている映画だった。
それにしても古い。なぜこんなボロボロのものを持ち歩いているのか、と不思議に思いながら捲っていると、最後のページで佐和の手は止まった。
「こ、これもしかして?!」
パンフレットの裏表紙には、この映画の超有名監督のサインらしき走り書きがあった。
「本物?!」
「そうなんです! アメリカに留学してた時、ニューヨークの古本屋で見つけたんですよ。教えたら引かれるぐらいの値段でしたけど、迷わず買っちゃいました。そのせいで、留学は一年短くなりましたけど」
「ウソだろ……」
信じられなかったのは、有名ハリウッド監督のサインではない。
そんな浅はかな桂が、信じられなかった。目を見張って見上げると、桂はおどけて肩を竦めた。
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