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「本当ですよ。まあ元々、アメリカに留学したのも子供の頃にその映画でSFにハマったから、ていうミーハーな理由なんですけどね」
「マジかよ? 超意外だ」
佐和は何度も目を瞬かせた。
桂が気まずそうに、佐和を見下ろす。
「……佐和先生、引いてますよね?」
「いや、それはないけど……。俺、学生時代なんてほんと趣味とかなくて、つまんない学生生活送ってたから、逆に羨ましいよ」
「本当に……そう思います?」
不安そうに訊いてくる桂に、いつもの尊大さは微塵も感じられない。
佐和は、自然と笑顔になった。
「ああ、思う。なぁ、SF好きってことは、留学中にエリア51とかも行ったの?」
「もちろんです!」
シルバーフレームの奥の切れ長の瞳が、少年のように輝いた。
「ロズウェルも行きましたよ。足を延ばして、メキシコにも行きましたしね」
「なんだよ、全然勉強してないじゃん」
「あ~、そうなんですよ。本当に、なにしに行ったんだ、て感じですよね」
そう言って笑う顔は、川上や、他のバカで可愛い生徒たちと重なる。
そんな桂は、佐和の知る桂ではない。
それにまた――落ち着かなくなる。
「あ、あのさ……」
落ち着かない自分を隠すため、咳払いをする。
「生徒もさ、UFOとか宇宙人とか、好きじゃん? そういう話、あいつらにしてやったら、喜ぶんじゃないか?」
笑いながら言うと、桂はふいに表情を引き締めた。
「生徒たちとは、こういう話はしません」
「……なんで?」
桂は眼鏡のブリッジを押さえ、いたく真面目に言った。
「特進科のエリート英語教師、というイメージを保つためです」
大真面目に言うので――佐和は大笑いした。
「さ、佐和先生?!」
タイムトラベルを信じ、UFOは未来人だと熱く語った男のセリフとは思えず、佐和は腹を抱えて笑い転げた。
桂が拗ねるのでまた、笑った。
「じゃあ……生徒には内緒にしといてやるよ」
笑いすぎて、溢れた涙を拭う。
桂はプイッとそっぽを向き、落ちてもいない眼鏡を直した。
「佐和先生のBL好きと、俺のSF好きは……俺たちだけの秘密です」
低い呟きに、笑いながら頷く。
(二人だけの秘密……)
佐和は、気づいていなかった。
二人だけの秘密。そんな簡単な言葉に、頬が緩むほど浮かれている自分に――。
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