256人が本棚に入れています
本棚に追加
それから数日後、中間テスト一週間前になり、放課後全ての課外活動が禁止になった。
「こら~、さっさと帰れよ」
佐和は放課後の教室を順に回って、部活がないのをいいことに、中々帰宅しない生徒たちを帰らせるのに忙しかった。
特進科の生徒はどうだかわからないが、普通科の生徒たちはテスト前だというのに緊張感がなく、いつまでも放課後の教室に残っているのだ。
一年生から教室を回り、佐和が副担任を受け持つ、二年生の教室にやって来た。
「お~い、お前らも早く帰れ」
う~っす、と中の数人から低い声が返ってくる。
ゾロゾロと教室を出て行く一団は、帰りに勉強すると言って、ファミレスに寄る約束をしていた。
(どうせ、勉強なんかしないんだろうな……)
教師としては頭が痛い。
「あ、佐和ちゃん」
その一団の中に、川上がいた。
「あ~、川上! お前、わかってんだろうな?!」
「わ~かってるよ! 俺は、みんなとファミレス寄らないで、真っ直ぐ帰るよ」
「んだよ、川上、付き合い悪りぃぞ!」
「ば~か、川上は試合がかかってんだよ」
「悪りぃ、お前ら先に帰ってて」
川上が一団にそう言うと、クラスメートたちは素直に帰って行った。
「俺が中間テストで平均点取らなきゃならないの、みんな知ってるから」
「ああ、俺も今日からは勉強見てやれないけど……」
こっそり近づき、声をひそめる。
「どうしてもわからないことがあったら、電話しろ。俺の携帯、知ってるよな?」
すると川上が噴き出した。
「なんだよ?」
「いや……深山先生も同じこと言ってくれたんですよ」
「深山先生も?」
桂の名前に――小さく胸が鳴る。
「はい。二人して、すっげ~特別扱いしてくれんすね」
「バカ! お前が特別バカだからだろ!」
「ははは。ですよねぇ」
ふと真面目な顔になる川上。そのままペコリと頭を下げる。
「マジで、佐和ちゃんと深山先生には……感謝してます」
「アホ。それは、無事平均点取れてから言え」
「はい!」
川上は明るく笑った。
川上の笑顔に、胸が熱くなる。
最初のコメントを投稿しよう!