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中間テストの全日程が終わり、放課後の課外活動が解禁になった。途端に、放課後の校内が賑やかになる。
が、ここ化学科準備室だけは、いつも通り静寂の中にあった。
その静まる室内を、白衣の袖を腕まくりした佐和が、落ち着かなくウロウロと歩き回っていた。
「……今さらそんなに緊張したって、しょうがないじゃないですか」
「ほっとけよ!」
佐和の席で、偉そうにふんぞり返っている桂を、振り返る。睨んでやろうとしたが、机を叩く桂の細い指も、落ち着きがなかった。
(やっぱ……深山先生も川上のこと、心配なんだ)
「なんです?」
佐和の心中を察したかのように、桂がチラッと見てくる。
佐和は微笑んで、首を振った。
二人は、川上を待っていた。川上は今日で全てのテストが返却されるのだ。
「大丈夫かなぁ、川上」
「大丈夫でしょう。川上のクラスの英語の先生に聞きましたけど、平均点はいつもと同じぐらいだったという話ですから、事前の模擬テストと同じだけできていれば」
「そこが心配なんだよなぁ……」
今回のテストには、川上の花園予選出場がかかっている。
川上が試合に出られないのは、ラグビー部的にも痛手だし、なにより川上本人が一番辛いはずだ。
(どうか、平均点いっててくれ~)
思わず、顔の前で手を合わせる。
その時、勢いよく扉が開いた。
「佐和ちゃん! 深山先生! や、やったよ!」
「川上?!」
「平均点、取れたのか?!」
化学科準備室に飛び込んできた川上を佐和が振り向くのと同時に、桂も椅子から立ち上がった。
「ありがとうございます! 英数国、平均点いきました!」
川上は二人の元に駆けてきて、答案用紙を掲げた。
英数国の答案用紙を佐和が受け取ると、桂が分厚い手帳を開き、メモ書きした川上が受けたテストの平均点を確認した。
「英語の平均が六十二点に対して、七十点。国語六十八点に対し、七十三点。数学は五十八点が平均で……六十一点」
「なっ? 全部平均いったっしょ?」
「本当だ……」
佐和は何度も、桂の手帳と川上の答案を見比べた。そして確かに、英数国とも平均点を上回っているのを確認した。
佐和が教えた数学が、一番出来が悪いのが気になるが――。
「うわ~! 先生! 俺、ちょ~嬉しいっす!」
「あ! こら! 川上!」
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