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川上は飛び上がって喜び、二人に抱きついた。生徒のくせに、川上が三人の中で一番背が高く、体も大きい。
佐和と桂は、二人纏めて川上の暑い胸に抱きしめられた。
「離せ! 川上!」
桂と一緒に抱き寄せられ、整った顔がいきなりドアップになって、佐和はたまらず暴れた。
「こんないい点数、俺、高校入ってから初めてっすよ~! マジ先生たち、すげぇよ!」
「わかったから……離せぇ!」
佐和は叫び、自分よりずっと大きい川上を引き剥がした。
一緒に抱きしめられた桂は――微動だにしなかった。
離れると、川上は目に涙を溜めていた。
「ホンとに……嬉しいっす。これで俺、試合出れる」
川上が勉強を頑張ったのは、全ては青春を捧げるラグビーのためだ。
それを知っているから、佐和の胸にも熱いものがこみ上げた。
「よかったな……」
「で、川上、他の教科はどうだったんだ?」
感極まる二人に水を差したのは、桂だ。
冷静な問いに、川上がバツが悪そうにする。オズオズと出された答案に――。
佐和が震えた。
「お~ま~え~な~!」
「す、すいません! だって英数国勉強してたら、他がおっつかなくて!」
英数国の主要三教科以外はほぼ全滅で、平均点どころか、赤点スレスレだった。
佐和の胸は冷え、怒りすらこみ上げる。
「こんなんじゃ、期末も同じことになるぞ!」
「わかってます! だから俺、今から勉強も頑張ります! ……あっ、もう部活行かないと!」
「川上! 待て!」
「すいません! 以後気をつけます!」
ラグビー部の中では足が速い方ではないが、その時の川上の逃げ足は素早かった。
「ありがとうございました!」
それだけ言って、あっという間に化学科準備室から脱出してしまった。
「まぁったく……」
腹立ちながらも、佐和は笑った。隣の桂も笑ったのが聞こえ、視線を向ける。
優しく笑う桂と目が合い――佐和の心臓がトクンと鳴った。
「あいつ……本当に勉強すると思うか?」
「……さぁ」
桂がきれいな顔を歪め、苦笑する。困った様子だが、その目は優しい――。
(や、やばい……俺、なんでこんなに……)
佐和は動揺した。心臓がうるさくて、戸惑う。
「……佐和先生?」
「うわっ!」
怪訝そうに覗き込まれ、思わず仰け反る。
桂がキョトンと、目を丸くする。
あまり見ない、幼い表情だ。
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