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(やばいやばいやばい……なんだ、これ?)
鼓動がどんどん激しくなる。
自分でわかるほど、顔が赤くなっていく。
佐和の異常に気づいたのか、桂が妖艶に笑んだ。
「ああ……いけない、忘れてました」
「は?」
「約束しましたよね。川上が、中間テストで平均点を取れたら……」
「わ!」
いきなり桂の腕が腰に回され、そのまま抱き寄せられた。
「佐和先生を貰うって」
「だからなんだよ、そっ……」
キスされた。
閉じた瞼が目の前にある。桂の睫毛は意外と長く、眼鏡のレンズに触れている。
(なんか……)
そんなことだけでも――。
胸が苦しい。
気づけば佐和は、自ら瞼を閉じていた。
薄く唇を開けば、優しく舌が入れられる。
この前された時より、ずっと優しいキスだった。佐和の舌に触れる桂の舌先は、もどかしいほどゆっくりと、優しい。
もっときつく吸ってほしくて、佐和の方が強引になった。自ら唇を強く押しつける。
(俺……なにしてんだ?)
頭の隅では、どこか冷静にそんな風に思っている自分がいる。
しかし体はその思いとかけ離れ、もっと官能的な口づけが欲しくて焦れている。
桂の肩に手を回し、掴んだ。
「……佐和、先生?」
ふいに唇が離れた。
桂が驚いたように、佐和を見ている。
佐和は、自分の唇を甘く噛んだ。
口づけたい、という信じられない衝動をやり過ごすために――。
「佐和先生……いいんですか?」
先に仕掛けてきたくせに、桂は戸惑っている。
(……よくない、絶対に)
そう思っているのに、体は正反対の動きをしていた。
佐和は顎を上げ、首を伸ばし――。
桂にキスをした。
こんなことは、初めてだった。
頭より、心より――体が先に動くなんて。
(これじゃぁまるで……)
大好きなBLみたいだ。
触れる唇が温かくて気持ちよい。ウットリして、体から力が抜けていく。
そこを桂に強く抱きしめられた。
息が止まりそうなほどの強い抱擁に、恍惚とする。
(もっと……)
危険な囁きが零れそうになった時――。
「……失礼します。本田先生、テストのことで質問してもいいですか?」
「わぁあああ!」
佐和は思いきり、桂を突き飛ばした。
間一髪のタイミングでドアが開き、海枝が覗いた。
「本田先生?」
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