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「お~、海枝! し、質問? いいぞ。……じゃあ深山先生、どうもお疲れさまでした」
(あっぶねぇ~!)
佐和は桂を押しやり、出て行くよう促した。
(海枝が来なかったら……)
「佐和先生……」
桂がなにか言いたそうにしているが、佐和は視線を逸らして海枝を呼んだ。
すると桂は、ため息を吐いてから海枝と入れ替わる形で、化学科準備室を出て行った。
「すいません、深山先生」
すれ違いざま、海枝が桂に声をかけた。海枝は笑っているように見え――桂の表情は見えなかった。
「か、海枝……わかんないとこでもあったか?」
「はい。最後の問題なんですけど」
海枝を招き入れ、日常に戻る。
いつもの自分を取り戻す。
佐和はうるさい心臓を無理やり静め、親切な教師を必死で演じた。
(俺……どうしたんだ?)
桂のキスを受け入れそうになったことは――桂とキスしたいと思ったことは――。
なかったことにした。
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