噂のあの子

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 高本佐奈(タカモト・サナ)が話しかけてきたのはそのときだった。 「ねー、松山(マツヤマ)―、もうすぐバレンタインでしょ。誰かに贈るあてがある?」 「んー」  と言って、松山千春(マツヤマ・チハル)は答えた。 「B組の斎藤(サイトウ)くん……」 「ああ、斎藤くん。イケメンよねー。金髪がさらさらだし」  やだあ、イケメンー、という佐奈はときめいていた。 「それから、うちのクラスの宮根屋(ミヤネヤ)くん」 「えー、あんな眼鏡かけてる暗い男にも? 斉藤くんでいいじゃん、斉藤くんで」  佐奈は言った。 「あ、でもぉ」  と言うのはもう一人の親友、向井(ムカイ)つばさだ。 「宮根屋くん、密かに人気あるんだよぉ。頭もいいしね」  宮根屋くんが恰好いいことは千春ひとりが知っている……と思ったのは勘違いらしい。 「人気あるんだよぉ」とどこか浮かれた調子で言ったつばさにずきんとする。 (宮根屋くんのいいところはあたしが知っていればいいのよ)  そして、噂のあの子「たち」が千春と一緒にとある行動することも知られていない。
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