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放課後の教室、夕陽が机に差し、校庭では野球部の声とバットがボールに当たる音が聞こえる。
そこで腰かけていると、男が話しかけてきた。
「松山さん、行こうか」
眼鏡の奥は綺麗な薄茶の瞳。その染めたこともなさそうな黒髪。気崩していない、トラッドな制服の着こなしなのに、その辺のちゃらちゃらした男などよりもよほど雰囲気があった。
こうして近づくと、動揺していることがわかってしまう。
いい匂いしてるな……とか、シャンプーの香りかな、とか考える自分はどきどきしている。
「そうね。いこっか、宮根屋くん」
クラスの皆に黙っていること。
そう、それはお互いの妹を引き取りに学童保育へ行くこと……。
「千春―。今日も恭子を連れにいくのか」
がらりと扉を開け、斉藤高満が顔を出した。
佐奈がイケメンと評したあの斉藤である。さらさらの染めた金髪に、腰穿きしたスラックスにゆるめたネクタイ。千春が「好きだ」と言えないのは、その性癖が残念だからだ。
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