甘い朝、棘は胸の奥に隠す。

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朝食を食べ終わったタイミングで、私は裕也さんの目の前にチョコレートの箱を差し出した。 「バレンタインデーなので、チョコをどうぞ。プレゼントは帰ってからお渡しします」 他の誰よりも早く裕也さんにチョコを渡したかった。 きっと会社でもらうだろうから。 「ありがとう。今は一個だけ頂きます。残りは帰ってからで」 そう言いながら箱を開けた裕也さんが、目を見開いた。 「これ……飛鳥さんの手作りですか?」 恋愛をしたことのなかった私には、バレンタインデーなんて無意味な一日だった。 就職してからは同じ課の男性たちに義理チョコを買ったりもしたけど、本命チョコを用意したのはこれが生まれて初めて。 それなのにいきなり手作りしようなんて思い立ったのは、誰にも負けたくなかったから。 私が市販のチョコを用意したのに、裕也さんが会社の女性社員から手作りチョコをもらって来たら、私の愛情が劣っているみたいな気がするに違いない。 裕也さんがそう思うことはないだろうけど、私の気持ち的にそれは嫌だった。 私、こんな負けず嫌いじゃなかったんだけどな。 恋する気持ちは人の性格まで変えてしまう力があるみたいだ。 「生チョコレートを作ってみました。形がイビツなのは初挑戦ということで大目に見てください」 パクッと口に入れた裕也さんの表情をドキドキしながら見つめた。 「旨い! こんな旨いチョコレートを食べたのは初めてです」 それはお世辞じゃなくて、本心からの言葉のようでホッとした。 「良かったです。じゃあ、残りは冷蔵庫に入れておくので、帰ったら食べてください」 「飛鳥さん」 冷蔵庫に箱を入れようとした私を裕也さんが呼び止めた。 「僕は世界一幸せな男です。こんなかわいい奥さんにこんなに愛されて」 そんなストレートな言葉をかけられて赤面してしまったけど、チョコに込めた私の愛が伝わったみたいで嬉しかった。
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