夜は切なく、そして蕩ける。

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パート先のドラッグストアは店長以下すべての従業員が女性だ。一人でも男性がいる職場では働かせたくないと言った裕也さんの気持ちが今ならわかる。 店内の特設コーナーにはバレンタインデー関連の商品が並ぶけど、職場の人間同士でチョコをあげたりお返しを用意する気遣いはいらない。 でも、裕也さんは……。 裕也さんの部署は男性よりも女性の方が多いらしい。正社員は少ないけど、アルバイトの学生からパートの主婦まで幅広い年齢層の女性が働いていると以前聞いたことがある。 溌溂とした今時の若い子や、しっとりとした色気のある人妻と毎日接している裕也さんには、私なんて味気無く見えることだろう。 睡眠時間をカウントしなければ一緒にいられる時間だって私の方が断然少ない。 今頃、裕也さんは職場の女性たちにチョコレートをもらっているのだろう。 もちろん既婚者である裕也さんに渡されるのは義理チョコだろうけど、もしかしたら本気で裕也さんを想っている女性からのチョコがあるかもしれない。 裕也さんは素敵だから。 メガネの奥の目が優しくて、穏やかな性格の素敵な人だから。 夕食は裕也さんの好物の金目鯛の煮つけ。 作っている最中に裕也さんからメッセージが届いた。 『同僚に誘われてちょっと飲みに行きますが、夕食は家でとります。飛鳥さんは先に食べていてください』 ガッカリすると同時にモヤッとした。 同僚って女性だろうか。何人かで行くのか、二人きりなのか。 私の脳内では今、裕也さんが色っぽい人妻の腰に手を回して、薄暗いバーでカクテルを飲みながら耳元で囁き合っている。 そんな不実な人じゃないとは思う。 でも、意外にも裕也さんは性欲旺盛だということが、この一週間でわかってしまったから。そそられる女性にチョコを渡されたら、その気になっても不思議じゃない。 結婚して半年。裕也さんが飲みに行くのは、忘年会とか新年会とか歓送迎会といった社内行事のような飲み会だけだった。 それなのに、どうしてわざわざバレンタインデーの夜に裕也さんを飲みに誘うんだろう。……誰が、何のために?
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