僕のバックアップデータ

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 今だって、お布団の中で覚えています。  旅館のお部屋の天井から釣り下がったぼんぼりみたいな照明。床柱の木目。床の間の掛け軸に書いてある毛筆の文字は、僕にはまだ読めないけれど、その不思議な形。その下にある一輪挿しに活けられた、紫によく似た花の色。  右手につないだパパの手の、なめし革みたいで熱い体温の感触。  左手につないだママの手の、ちょっと指先が荒れてるけど柔らかい感触。  全部を覚えて、いつでも今日を思い出せるように。  何度でも、何度でも、今日を味わえるように。  いつの日か、これがパパやママにとっても僕にとっても、前へ進むために必要な通過点だったんだと、ほんとうに理解できる日が来るまで。  その日まで、僕は何度でも今日を「想像力」でやりなおせるんだ。  だから僕はお布団の中で、今日の僕に「またね」っていう。幸せは消えたりしないんだよ。記憶の中で、いつでも僕を励ますために待っててくれる。  パパ、ママ、ありがとう。  今日は今までで一番楽しい日でした。 了
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