託された想い

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 己の生まれの不幸を呪ったときだった、ふと影がさしたかと思うと、制服姿の女子と目が合った。   どうした女学生よ。吾輩を見つめて。  そうか、綺麗なチョコを買いそびれてしまったのだな。ああ、可愛そうに。だが、もうここには吾輩くらいしか残っておらぬよ。  ここにも出遅れた者がいる。と、同情したとき女学生が吾輩を手に取った。  おっ、お主、吾輩を買ってくれるのか。おお、それは有難い!  礼を言うぞ、女学生。我がチョコ生にかけてお主にお口の幸せを約束しよう。  吾輩を選んだこと、けして後悔はさせんぞ!!  女学生は吾輩を連れてレジに向かい、お金を払うと袋や鞄には入れずに、そのままスーパーを出た。  そして、すぐさま駆け出した。  どうした。そんなに走って、急用か?  女学生は生きを切らしながら、大きな建物のある敷地の門の所で立ち止まった。  そして、息を整えると、吾輩を額に押し付けた。  これ、女学生。そんなに額をくっつけてしまっては、体温で吾輩が溶けてしまうぞ。 「お願い、届いて。わたしの気持ち」  女学生はそう呟くと、「よしっ!」と気合を入れて歩き出した。  そうか。お主は想い人に気持ちを告げるために、吾輩を手に取ったのだな。  よし、任せておけ、その想い。その気持ち。吾輩が必ず届けよう。  たとえ地味で安価な菓子だとて、チョコにはチョコの意地がある。  吾輩がお主のキューピドになろうではないか!  ※ ※ ※  その後、その女学生がどうなったのか、吾輩は知らない。  だが、吾輩がキューピドの刻印の入ったミルクチョコに生まれ変わったところを見ると、おそらく女学生の気持ちは相手に届いたのだろう。 「ばれんたいんに買われたチョコは天使になる」という言い伝えは本当だったようだ。  吾輩はチョコである。 名前を「天使のミルクチョコ」という。
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