1章 蕾が花開く話

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1章 蕾が花開く話

彼と出会ったのは、まだ寒い冬の日の事だった。 私は友人の美幸に誘われて、軽音サークルに入る事になった。 正直、勉強に集中したいし、勉強に支障の出ない地味なサークルに入りたいと、当初の私は思っていた。 軽音サークルに入るつもりなんて正直、毛頭なかった。 けれど、結果的に入る事になった。 それには理由があって、まず一つは私が昔から美幸には甘いこと。何だかんだで憎めない優しい人だから、ついつい甘やかしてしまうのだ。 そしてもう一つは、軽音サークルが潰れそうになっていたから、だ。 美幸は中学の頃からギターをやっていて、大学に入る時も、「サークルは絶対音楽系に入るんだ!」と意気込んでいた。 そんな彼女がやっと見つけて入れたというのに、潰れかかっていた。 あと2人、入れないと流石に厳しいものがあると言われた。 正直、「いやいや、こんなに人がいて何故ここのサークルだけ人が少ないの?絶対沢山入る人いるって…」と思わなくもなかったけど、最初に言った通り、私は美幸に甘いのだ。 美幸に流されつつ、私と美幸は軽音サークルに割り当てられたという部屋に行った。 今は殆ど使われてない棟の奥の、そのまた奥。 そうしてやっと見つけた部屋の近くに行くと、中から歌声が聞こえた。 その歌声は、少し掠れていて、低い、男性の声だった。 綺麗な声だと思った。 ぼーっと聞いていたが、ふと我に返る。 そういえば私達は何の為にここに来たんだ、目的を忘れてはダメだ。と。 歌を、遮るのは少し申し訳なかったけれど、このままここにいても仕方ないので、部屋のドアをノックすると、歌が止まり、ドアが開いて、歌声のぬしらしき人が「いらっしゃい」と手招きする。 私と美幸は二人揃って緊張しながら、手招きされるままに部屋に入った。 入るまで、気が付かなかったけれど。 パッと見、歌を歌ってたらしい人しかいなかったけど、奥にはもう1人居たらしく、慌てて挨拶すると、解釈だけされ、ソファに座るように促される。 言われた通りに、座ると、ソファはすごく柔らかくて、このままお尻が埋まってしまいそうだ、なんてくだらないことを考えてしまった。
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